最近は、「良い脂質」という言葉がよく言われる。
だが、脂質(脂肪酸)には、色んな種類があって、分類などもややこしいので、「結局は何が良い脂質なの?」がわかりにくい。
「脂質」において、踏まえておくべきことをまとめると、以下のようになる。
- 「良い脂質」とは、「オメガ3脂肪酸」を多く含む脂質
- 「オリーブオイル」は、「マシな脂質」であって「良い脂質」ではない
- 「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」「必須脂肪酸」のような言葉は、混乱するだけなので意識する必要はない
- 「脂質を控えたほうがいい」は、結果的に間違いではない(だが、理屈を踏まえておいたほうがいい)
これらの根拠について、この記事で、なるべくわかりやすく、簡潔に解説していく。
なお、この記事を書くにあたって、主に、守口徹『眠れなくなるほど面白い 図解 脂質の話』を参考にしている。
目次
「脂質」が重要である理由
「身体を作る栄養素」が「タンパク質」であるという知識を持っている人は多いだろう。
だが、実は「脂質」も、「タンパク質」と同様に、身体を作るのに欠かすことのできない栄養素だ。
人間の身体には約37兆個の細胞があるが、その「細胞膜」は「脂質」から作られる。
「細胞」は主に「タンパク質」から作られるが、「細胞膜」は「脂質」が原料なのだ。
「細胞膜」の状態は、「栄養の取り込み」「老廃物の排出」「細菌の侵入防止」「細胞同士の連携」などに関わる。
そのため、当然ながら、「摂取する脂質の質」は、全身のパフォーマンスや健康状態に深く関係し、「脂質の質」が悪いと、様々な不調の原因になる。
また、体内で分泌される「ホルモン」の原料も「脂質」だ。
さらに、「脂質」は、「脳神経組織」の主な材料でもある。脳の有形成分のうち、「35%がタンパク質」で「65%が脂質」とされている。「脳」は特に脂質が重要な部位なのだ。
「DHA」などの良質な脂質が、「脳機能の向上」や「認知症の予防」に繋がるとされているのは、それが理由。
「摂取する脂質」のクオリティは、身体全体の調子に関わり、特に「脳のパフォーマンス」に大きく影響する。
「脂質」は「正しい知識」が必要
「タンパク質」は「量」が重要だが、脂質は「質(バランス)」が重要だ。
「タンパク質」は、「脂質」と並んで重要な栄養素だが、実はそんなに難しいことを考える必要がない。
「タンパク質」の場合、単純に「量」に着目すればそれでいい。
タンパク質にも、体内合成できない「必須アミノ酸」などの概念があるが、卵、乳製品、肉、魚には、「必須アミノ酸」がすべて含まれているので、あまり気にする必要がない。
補助食品である「ホエイプロテイン」などにも、すべての必須アミノ酸が含まれている。
大豆は、メチオニンなどの必須アミノ酸が若干足りないと言われてきたが、最近の研究では、すべての必須アミノ酸の基準をクリアしているという見方もある。(ここらへんはヴィーガン食は健康かという論点でかなり議論されているところなので、詳しい説明は省く)
いずれにしても、卵、乳製品、肉、魚、大豆や、プロテインなどを普通に摂取していれば、タンパク質の「バランス」は大丈夫なので、単に「量」に着目すればいい。
(アスリートや、競技レベルでボディメイクをする人は、「クレオチン」「BCAA」「EAA」などのアミノ酸を摂取することもあるが、一般人にとっては必要ない。)
一方で、「脂質」は、「タンパク質」と違って「量」を摂る必要はないが、「質(脂質のバランス)」が重要になるので、「正しい知識」が必要なのだ。
では、脂質を摂取する上での「正しい知識」について、説明していく。
「良い脂質」とは何か?結論は「オメガ3脂肪酸」
「どんな脂質を摂ればいいのか?」の結論から先に言う。
POINT
- 「オメガ3脂肪酸」の摂取量を増やす
- 「オメガ6脂肪酸」の摂取量を減らす
- 「オメガ9脂肪酸」を「オメガ6脂肪酸」の代用として使う
以上が、脂質を摂取する上での重要なポイントだ。
まず、「オメガ3脂肪酸」や「オメガ6脂肪酸」というのは脂肪酸の種類のこと。科学では「n-3系脂肪酸」「n-6系脂肪酸」と表記することもある。以降では、簡略化して、「オメガ3」「オメガ6」と表記する。
重要なのは、「オメガ3」「オメガ6」「オメガ9」の3つで、それぞれの脂肪酸が含まれる主な食品は以下のようになる。
「オメガ3」を多く含む食品
- 青魚
- クルミ
- アボカド
- チアシード
- えごま油
- 亜麻仁油
「オメガ6」を多く含む食品
- 肉や卵
- サラダ油
- ごま油
- トランス脂肪酸
- マーガリン
- マヨネーズ
「オメガ9」を多く含む食品
- アーモンド
- アボカド
- オリーブオイル
- ひまわり油
- キャノーラ油
なお、どんな食品も、様々な「脂肪酸」が組み合わさった状態だ。
つまり、「オメガ3」を多く含む食品というのも、すべてが「オメガ3」ではなく、他の食品と比べて、多くの「オメガ3」を多く含むという意味。
脂質に関しては、「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」「必須脂肪酸」などの用語があって、混乱してしまう人が多いだろう。
- 「飽和脂肪酸」か「不飽和脂肪酸」か?
- 「必須脂肪酸」かどうか?
実はこれらは、脂質を摂取する上で、意識するべきポイントではない。
以降では、「なぜ意識すべきポイントではないのか」を、簡潔に説明していく。
「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の違い
「脂肪酸」というのは、脂質の構成要素のこと。
「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」というのは、脂肪酸の分類の仕方。
栄養摂取においては、以下の知識が重要になる。
- 「飽和脂肪酸」は、人間の体内で合成することができる
- 「不飽和脂肪酸」のうち「オメガ9脂肪酸」は、体内で合成できる
- 「不飽和脂肪酸」のうち「オメガ3脂肪酸」と「オメガ6脂肪酸」は、体内で合成できないので「必須脂肪酸」と呼ばれる
という分類になっている。
ただ、「飽和脂肪酸」だから身体に悪く、「不飽和脂肪酸」だから身体に良い、というわけではない。
よく、「飽和脂肪酸を避けましょう」ということが言われがちだが、これが混乱の原因になる。
例えば、
- ココナッツオイルなどに多く含まれる「MCTオイル(短鎖脂肪酸)」は、エネルギーとして消化されやすく、「飽和脂肪酸」でありながら、健康に良い油とされている
- 人工的に生成しやすく、健康への悪影響が指摘される「トランス脂肪酸」は、「不飽和脂肪酸」
- 「オメガ6」は、「不飽和脂肪酸」で、体内合成できない「必須脂肪酸」だが、控えたほうが良いとされる
- 「オメガ3」は、「不飽和脂肪酸」で、体内合成できない「必須脂肪酸」で、積極的に摂ったほうが良いとされる
となる。
ややこしく思えるかもしれないが、ようするに、「飽和脂肪酸」か「不飽和脂肪酸」かというのは、食品を選ぶ際に役に立つ指標ではなく、単に混乱してしまうだけなのだ。
一般的な食品は、複数の「脂肪酸」が組み合わさった状態で、「飽和脂肪酸」の比率が高い脂質ほど、健康に悪い傾向はある。そのため、「飽和脂肪酸を避けましょう」にまったく実態がないわけではない。
しかし、「飽和脂肪酸」を避けて、「不飽和脂肪酸」を摂ったほうがいいというのは、純粋に間違った知識だ。
「飽和脂肪酸」か「不飽和脂肪酸」かという分類は、学術面や生産面では有用でも、消費者が食品を選ぶ際には役に立たないので、意識しないほうがいい。
あと、同様に、「必須脂肪酸」という言葉も、混乱の原因になる。以降で説明していく。
「必須脂肪酸だから摂取するべき」は間違い
「必須脂肪酸」という言葉あり、「オメガ3」と「オメガ6」がそれにあたる。
どちらも、体内合成ができない脂質であり、食品から取り入れるしかない。
しかし、だからといって、「オメガ3」と「オメガ6」の両方を摂取しましょう、とはならない。
「オメガ6」は、体内合成はできないものの、ほとんどの油に含まれていて、むしろ過剰摂取が問題になる「避けるべき脂質」とされている。
ちなみに、「オメガ9」は、体内合成が可能な「非必須脂肪酸」だが、「オメガ6の代わりに使うと身体が良い」とされている。
普通に食事をすると、「オメガ6が多すぎ」になるので、「オメガ6」の代わりに「オメガ9」を使えば、バランスが良くなるという理屈だ。
- 「オメガ3」……体内で合成できない「必須脂肪酸」で、積極的に摂取したい
- 「オメガ6」……体内で合成できない「必須脂肪酸」だが、過剰摂取が問題になるので、なるべく控えたい
- 「オメガ9」……体内で合成できる「非必須脂肪酸」だが、「オメガ6」の代わりに使うと身体に良い
となる。
「必須脂肪酸かどうか?」を基準にすると、混乱してしまうだけ。
「必須アミノ酸」とか「必須脂肪酸」という言葉は、おそらく「必須○○配合」と書くと良いイメージが与えられるという理由で、食品業界が好んで使いたがるが、実はそんなに意識しなければならないものではない。
なぜ「オメガ3脂肪酸」を積極的に摂るべきなのか?
脂質で重要なのは「バランス」だ。
特に、「オメガ3」と「オメガ6」のバランスが重要。
「オメガ3」と「オメガ6」には、それぞれ
- 「オメガ3」……細胞膜を柔らかくする
- 「オメガ6」……細胞膜を硬くする
働きがある。
「オメガ3」も「オメガ6」も、どちらも重要なのだが、普通に食生活をしていると、圧倒的に「オメガ3」が不足しやすく、「オメガ6」は過剰摂取になってしまう。
その場合、「オメガ6」の「硬くする」作用が強くなりすぎてしまうので、「柔らかくする」作用の「オメガ3」を摂取しなければならない。
「オメガ3」を豊富に含む油が、「動脈硬化の予防」や「血液サラサラ効果」などと説明されることが多いのは、そういう理屈だ。
なお、「オメガ6」は、欠乏することはまずない。米、小麦、大豆、乳製品、肉など、たいていのものに含まれている脂質は「オメガ6」の比率が多いからだ。
「オメガ3」が豊富と言われる魚やナッツにも、「オメガ6」は含まれている。
そのため、なるべく「ありふれた脂質」を避けて、「オメガ3を多く含む脂質」を摂ると、脂質のバランスが良くなる。
また、「オメガ9」は、体内合成できるので、積極的に摂らなければならないわけではないが、「オメガ6」の代用として使うことで、「オメガ6」の比率を下げることができる。
「オメガ3」が多く含まれる油は、熱に弱く、食用油としては使えない。だが、「オメガ9」を多く含む「オリーブオイル」などは、調理用としても使えるので、「サラダ油」や「ごま油」の代わりに使うと、「オメガ6」の比率が下がるので健康に良い、という理屈だ。
実は、「オリーブオイル(オメガ9)」自体を摂取するのが身体に良いわけではなく、「オメガ6」が多い食用油よりはマシなので、代用に使うと健康効果があるという話なのだ。
結論としては、最初に述べた通り、
POINT
- 「オメガ3」の摂取量を増やす
- 「オメガ6」の摂取量を減らす
- 「オメガ9」を「オメガ6」の代用として使う
となる。
以下では、「オメガ3」を摂取しやすい食品について解説する。
「オメガ3」を摂取しやすい食品
具体的に、「DHA(ドコサヘキサエン酸)」「EPA(エイコサペンタエン酸)」「αリノレン酸」が、「オメガ3脂肪酸」に分類される。
- 「DHA」「EPA」は、魚の油に含まれる
- 「αリノレン酸」は、クルミ、チアなどの植物に含まれる
「DHA」と「EPA」は、特に優れた健康効果があるとされている。
ただ、「αリノレン酸」も、代謝の過程で、一部が「DHA」「EPA」に分解される。
これらの「オメガ3脂肪酸」が、積極的に摂取したい「良い脂質」だ。
マメ知識だが、「なんで魚はオメガ3が豊富なの?」について、「αリノレン酸」は植物が含むことが多く、植物プランクトンは「αリノレン酸」を豊富に含んでいる。その植物プランクトンを餌とする魚介類が、同じ「オメガ3」である「DHA」や「EPA」を蓄える。魚ほどではないが、蟹や貝などにも「オメガ3」が比較的多く含まれているぞ!
では以下、それぞれの食品について簡潔に解説していく。
青魚
「DHA」「EPA」は、主に魚の油に含まれている。
「オメガ3」は熱に弱く、「煮る」と2割減、「揚げる」と5割減と言われている。
「生(刺し身)」で食べるのが理想だが、「煮る」調理でもそこまでは減らないので問題はない。
「鯖」や「イワシ」のような青魚は、特に「DHA」や「EPA」が豊富。
おすすめは「サバ缶」。
おいしく食べられるし、保存しやすく、十分な量の「オメガ3」を摂取できる。
「食品から摂取するのが面倒」「カロリーが気になる」場合は、「フィッシュオイル」のサプリメントがおすすめ。
魚の油の良質な部分を固めたシンプルなものだが、値段も安いし、合理的。
減量期のボディビルダーや、ローファットダイエットをしている人は、「最低限の脂質」を確保するために、「フィッシュオイル」のサプリメントを選ぶことが多い。

クルミ
ナッツ類の中でも「クルミ」は、「オメガ3」である「αリノレン酸」を豊富に含んでいる。
さらに「クルミ」は、ポリフェノール、食物繊維、ビタミンE、ミネラルなど、総合的な健康効果に非常に優れた食品だ。
「ナッツ類」はそれぞれ良質な美容・健康効果があるので、「クルミを中心としたミックスナッツ」を選ぶことをおすすめする。

アボカド
アボカドは、その多くが油分だが、「オメガ3」である「αリノレン酸」と、「オメガ9」である「オレイン酸」の比率が高い。
「オメガ3」の比率がそこまで高いわけではないが、多くが「オメガ9」で、食物繊維やビタミンが豊富であることからも、美容・健康効果に優れた食品と言うことができる。
チアシード
チアシードは、シソ科の植物の種で、「αリノレン酸」を多く含んでいる。
チアシードは特に「αリノレン酸(オメガ3)」の比率が高く、全体の脂質のうちの50%以上を占める。
それほど味の良いものではないが、食品ではなくサプリメントと考えて、「オメガ3」目的で少量食べるのもアリ。

えごま油
チアシードと同じ、シソ科の植物から取れる油。
「αリノレン酸」が非常に豊富。
一般的な食用油と違って、火を通すことはできないので、サラダや豆腐などにかけて、生のまま食べる。
味が良いわけではなく、調理にも基本的には使えない。
健康目的でかける油だ。
あまに油
亜麻の種子から取れる油で、「αリノレン酸」が豊富。
「えごま油」と同様に、加熱できず、そのままかけて食べる。
「えごま油」よりは若干味が良く、ドレッシングやマヨネーズとして使いやすい油ではある。
だが、通常の油と比べて、どうしても味は落ちる。
少量の「オメガ3」を摂取すればOK
「オメガ3」が多く含まれる食品を紹介してきたが、「ここで挙げてきた食品を、普段からほとんど摂取できていない」という人も多いのではないだろうか。
「オメガ3」は、鶏卵や乳製品や食物などにも、わずかに含まれているので、まったく不足するわけではない。だが、意識して摂らなければ、たとえ「健康的な食生活」をしている人でも、うっかりすると不足してしまいがちな栄養素だ。
「正しい知識をベースに、意識して摂らないと欠如しやすい」という意味では、ビタミンやミネラルなどよりむしろ、「オメガ3」が最も欠如しやすい栄養素と言うべきかもしれない。
なお、脂質の重要性を述べてきたが、「脂質」は「タンパク質」と違って、必ずしもたくさん摂らなければならないわけではない。
糖質制限をしている人は脂質をちゃんと摂ったほうがいいが、穀物などを主食にするなら、健康的な食生活を目指して「脂質を減らす」のもアリ。
だいたいの脂肪は体内合成できるので、極端に痩せている人や、何日も断食している人でない限り、「脂質そのものが足りない」みたいなことはまず起こらない。
「脂質を気にして、鳥もも肉ではなく、鶏むね肉を選ぶ」という努力が、間違っているわけではない。たいていの脂肪分は「オメガ6」の比率が高いので、脂質を控えることは、脂質のバランスを整えることにも繋がる。
あと、勘違いしやすいが、「オリーブオイル」は、「それ自体が健康に良いから積極的に摂取すべき」というものではなく、「他の油の代用として使うと健康に良い」というものだ。無理してオリーブオイルをたくさん摂る必要はない。
結論として述べてきたように、最も重要なのは「オメガ3」を摂ることだが、知識さえあれば、そんなに難しくはない。
「オメガ3」の1日の摂取基準は、成人男性で「2.0〜2.4g」、成人女性で「1.6〜2.0g」とされている。
フィッシュオイルのサプリメント1粒か、チアシード10gを摂取すれば、それで1日の「オメガ3」の摂取基準を満たすことができる。
もちろん、「サバ缶」を1缶食べれば十分だし、「クルミ」を20gほど食べても基準をクリアできる。
ただ、糖質ではなく脂質を主なエネルギー源にする人の場合、「オメガ6」の摂取量が多くなってしまいがちなので、より意識的に「オメガ3」や「オメガ9」の脂質を摂ったほうがいいだろう。
以上、「良い脂質」について解説してきた。
より詳しく知りたい人は、書籍を読んで勉強してみてほしい。
当サイトでは、「美容におすすめの食べ物」や「ダイエットにおすすめの食べ物」の解説記事も書いているので、よければ以下も参考にしてほしい。

